SST 『 泣き虫王子と森の祭壇 』
- moshimoshisapporo
- 2019年11月20日
- 読了時間: 4分
今日のメインプログラムは、SST(ソーシャルスキルトレーニング)でした。
SSTとは絵本や人形劇などを通して、子ども達に道徳と世の中の結びつきを伝えるものです。
今日のテーマは涙の本当の意味として、
もしもし完全オリジナルストーリーで紙芝居を製作しました。
題は『 泣き虫王子と森の祭壇 』です。
それではどうぞ。
遠い遠い昔ある王国に、1人の王子様がいました。

王子様は、日に一度町に降りてきては人々を困らせていました。
パン屋で甘い砂糖パンを見つけると、「そのパンをよこせ。」とわがままを言いました。
「王子様、申し訳ありません。これは息子の誕生日のために用意した特別なパンでして…。」
そんな時は決まって、

「うわ〜ん!パン屋がいじわるした〜!どうしてもそのパンが欲しいよ〜!絶対に欲しいんだよ〜!」と、王子様は大泣きするのでした。
そうなると人々は、しかたなしに
「わかりました。このパンを差し上げましょう。」
と、しぶしぶ王子様の言うことを聞くほかなかったのです。
本屋に行っては、
「この本を読んでくれよ〜!」と大泣きし、
果物屋では、
「どうして酸っぱいオレンジばっかりなんだよ〜!」と泣きわめいたのです。
この迷惑な王子様は、影でこっそり『 泣き虫王子 』と呼ばれていました。
ある日のこと、
泣き虫王子がうさぎ狩りをした帰りに森を歩いていると、
1人の女の子が石を積み上げているのを見ました。

王子様は気になってしばらくその様子を見つめていました。
どうしても目が離せなくなったのです。
なぜなら、王子様はその少女に一目惚れしていたのでした。
王子様は、この子を僕の家来にしよう、と思いつきました。
王子様は少女の前に立ちはだかり、
「おい、おまえ。おれはこの国の王子だ。おまえ、お、おれの家来になれ!」と、言いました。
少女は、にっこりと微笑んで、
「いいえ、それはできません。」と答えました。
すると王子様は、
「うわ〜ん!嫌だ〜!お前は絶対におれの家来にならないとダメなんだ〜!」
と、いつものように大声で泣き出したのです。

地面に転がり泣き叫ぶ王子に、少女はそっと近づきこう言いました。
「わたしは、王子様の家来になることはできません。なぜなら、わたしにはやるべきことがあるのです。」
「おれは王子だぞ。王子の命令が聞けないのか?!」
「はい。わたしはこの祭壇を作らなくてはいけないの。」
「祭壇?お前はお墓を作っているのか?」
「そうです。これは、私の家族のお墓です。」

「わたしの父は1年前、馬車に轢かれて死んでしまいました。」
「私の母は3ヶ月前、心を病んで死んでしまいました。」
「私の兄は先月、熊に襲われて死んでしまいました。」
「そして私の妹は、1週間前に私の腕の中で冷たくなって死んでしまいました。」
それを聞いた王子様は、ピタッと泣き止みました。
「わたしは、それから毎日泣いて、泣いて泣いて、もう頭が痛くて割れそうだったの。」
「もう泣くことも辛くて、辛くてどうしようもなくて。」
「そして考えたの。この森に家族がみんなで入れる祭壇を作ろうって。」
「そうしたら、見て。涙が止まったわ。」
「わたしには、もうこれしかできない。だから、わたしは忙しいのです。」
王子様は、何も言えなくなりました。

何も言えず、その場を後にしました。
お城についても、一日中、あの女の子のことを考えていました。
次の日、王子様は1人で森に行きました。
あの少女は、同じ場所で石を積んでいました。
「王子様、何をしに来たのです?わたしは忙しいのです。」
すると王子様は、
「おれが、祭壇作りを手伝ってやる。」と言いました。

きっと、王子様は少しでも少女の側にいたかったのかもしれません。
次の日も、その次の日も、毎日毎日、王子様は森へ行き、少女の祭壇作りを手伝いました。
そうして、日の差し込む森の広場に、大きくて立派な祭壇ができあがったのです。

少女はこう言いました。
「あぁ、すばらしいわ。これでやっと家族の元に行けるのね。」
少女の顔は、寂しそうに笑っていました。
「ダメだ!そんなの!」
突然王子様が叫びました。

「せっかくきみと仲良くなれたのに!ぼくはきみを助けようと思ったのに。」
王子様の目から、ポロポロと涙がこぼれました。
「王子様…。」
すると突然、それまで冷たくこわばっていた少女の顔が急にほどけて、顔中くしゃくしゃな赤ちゃんのように泣き始めたのでした。

「ぅうう、わたし、うれしかった。」
「王子様と一緒に過ごしていて楽しかった。」
「ありがとう。ありがとう。」
2人は、大声を出して泣きました。
目からはボロボロと大粒の涙を流しました。
しかし、それは優しく暖かな涙でした。

今日も、王子様は街で『泣き虫王子』と呼ばれています。
王子様は人々を助けては、その人々の心に触れ、涙を流すからです。
もう、影で呼ばれているのではありません。
今ではみんなに愛される泣き虫王子になったのです。

※背景は「灰と幻想のグリムガル」の美術ボードを拝借しています。
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